WELOCOM TO THE TOWN OF DEVIL

ついに帰ってきた岐阜県
だが、そこに待っていたのは、無数の試練であった


 この部屋は、こんなにも狭かっただろうか?何も変わっていないはずの部屋。いや、現に何も変わっていない。ということは、狭く感じるのは心のせいだな。窓の向こうでは、雨はやむ気配がなく降り注いでいた。


 事の始まりは今から12時間前にさかのぼる。


 実家でいつもの様に起床。だが、それがいつもと違うのは今日が最後だと言うことである。布団をたたみ、一ヶ月世話になった部屋を後にする。そして家にも別れを告げ、駅のホームへと向かった。
 今日の福岡は晴れていた。まるでそれは、私を見送ってくれているようにも見えた。だが、その時はまだ私は知らなかった。それが悪魔の微笑であることを。
 まず初めの異変は電車内で起こった。自転車を担いでいる私は、最前列か最後尾で邪魔にならないようにしなければならない。この日の私は運転手の見える最前列を陣取っていた。運転手の行動が手に取るように分かり、どうやら今日の運転手は研修かテスト中だった。で、駅から出発した瞬間突然運転手が何かに気づき急ブレーキ。運転室ではベルが鳴り響き、運転手が動揺する横で試験官みたいな人が手際よく無線でどこかに連絡を取っていた。しばらくした後再出発。なんだったんだ?
 次なる異変は空港で起こった。今日は一人で空港に来たわけでなく、姉と一緒である。姉は飛行機に乗ったことがないので、今度乗ることを考えて下見に来たのである。ということで乗り方などを教えてから分かれる。その後ゲートの前で出発の時間まで待っていたが、どうにも航空機への案内が始まらない。こうなったら原因はひとつである。整備中だ。案の定放送で「現在航空機は出発のための最終確認を行っております」などというが、絶対整備中である。がんばれ運行整備士!それから15分ほどして「機体に不具合が見つかったため、現在整備中です」と素直に白状。で、それからさらに15分ほどして機内へ案内され、「現在コックピット内で整備作業を行っています」の放送。さらに時間がたって「現在書類手続き中」の放送の後、しばらくたってやっと出発。そんなこんなで中部国際空港へ向かうが。えらく気流が不安定で揺れる揺れる。飲み物もこぼれるのでアイスコーヒーを一気飲みすることに。カフェインに弱い私はその後頭痛に悩まされる。
 そして、愛知県に到着。外はどんよりとした曇り空で、まるで私の帰宅を阻むような気がした。否、それは阻むと言うより歓迎である。そう、ここはもう悪魔達の世界なのだから。
 電車に乗るが、早くも問題が。最前列と最後尾に自転車を置くスペースがないのである。ということで、かなりお邪魔になりながら、子供達に自転車蹴られながら2時間近く電車に揺られる。とても居心地が悪かった。
 そして岐阜県に到着。これから自転車で寮に帰ろうと思っていたのだが、岐阜県はばっちり雨。雨は雨でも土砂降り。しょうがないので結局タクシーで帰宅。
 なんとか寮に到着。懐かしいマイルーム。再びこの部屋での生活が始まる。ともかくパソコンのメールで家族に帰還報告でもしておこうと、パソコンのスイッチを押す。押す。押す。押す。オス。押忍!起動しない…。起動しません!コンセントが抜けていない、配線が緩んでいない。というかマザーボードダイオードが光っていないことからして既におかしい。原因はまだ良く分からんが、ただひとつだけ分かることがある。それは、パソコンが起動しないと言うことである。しょうがないので夕食でも食べて元気を出そうとしたら、ガスが出なかった。そういえばガスの供給停止の督促状が来てたっけ。
 ……困ったときは友人に助けを求めよう。雨の中部屋へと向かうが、まだ帰っていなかった。絶望…。私はただ椅子に座り、部屋を眺めた後、窓の外を見た。



 雨はやむ気配がなかった。寮に帰ったと言うのに、私を迎えてくれたのは文明の明かり、電灯だけだった。むなしい…。とりあえずこの空腹を何とかしたい。殆どやけになってコンロのノブを捻っていると、希望の光が灯った。そう、まだガスが着ていたのだ。ガスが生み出す炎は暖かかった。暖かな火により水はお湯となり、お湯はカップ麺となる。空腹の仲食べたカップヌードルはいつもと同じ味がした。
 希望は続く。もうすぐ友人が帰ってくるらしい。さびしいので友人に来てもらって気を紛らわす。が、パソコンが起動しないと分かると、
「この部屋の存在価値の半分以上なくなっとるな」
 なんだその「私=パソコンとインターネット」みたいな言い方は!否定できないが。
 その後時間も進み、
「じゃ、今からテレビ見るから」
 といって友人は部屋に戻っていった。私は、テレビを見ようにもパソコンが動かないから見ることもできない。
 のどが渇いた。寮の自販機でコーラを買って飲もうとしたら、手が滑って床に落としてしまう。そして開けたらスプラッシュ!
 その後、この日は不貞寝しました。しかし、一ヶ月間手付かずの布団からは、無数の埃により人間に対するバリアーを形成していた。
 負けるものか!と気合を入れながら、私は就寝した。