ゆっくり、走ろう

ゆっくり走ろう

 ロードバイクを買ってから、自転車のスピードははるかに向上した。
 しかし速くなった結果、忘れてしまったものがあったようだ。
 そんな、ゆっくり走ることに対する徒然。


 私が所有する唯一の折りたたみ自転車、ハンテン(ダホン メトロOEM 以下メトロ)を買ったのは、ちょうどメリダがドロップハンドル化した時である。メリダが本気乗り用になり、お手軽に乗れるに買ったわけだ。本当ならもう少しいい自転車を買いたかったのだが、貧乏学生だった当時は2万円のメトロがいっぱいいっぱいであった。ともかく当初の思惑通りの活躍はしてくれた。
 メトロは町中をのんびり走る分には全く問題はない性能で、頑張って漕げばそれなりのスピードは出る。その後バーエンドバーを追加したり、ペダルを変えてハーフクリップが付いたりして、だんだんスピードを出しやすくはなってきた。
 が、折りたたみ自転車はタイヤが小さい。ロードから折りたたみ自転車に乗り換えてみると、加速こそ楽なのだが、ペダルを止めた瞬間から急速に減速していく。ロードなら30km/hぐらい出せば惰性でかなり進むが、折りたたみ自転車はそうはいかないのだ。つまり、走行性能はフルサイズの自転車と比べるとどう頑張っても劣ってしまうのだ。つまり、スピードが出せない。
 しかし、逆に考えればこうだ、スピードを出さなければいいのだ。

 速さは正義。いつからだろうか、自転車に乗り始めてそう感じるようになったのは。クロスバイクを買い、ドロップハンドル化し、そして本当のロードレーサーを買うに至る。ただ、スピードを追い求めてきた。そうすると、いつしかスピードの出せない折りたたみ自転車が乗ることは少なくなり、実際メトロの出番は滅多なことではなかった。
 だが、上記の発想の転換をすることで、急速にメトロの出番が増えつつある。速く走る必要がないと、逆にゆっくりと走ってしまう。すると、今まで見えない物も見えてくる。いつもは高速で通過する道路の脇を見ると、ちらっと川が見えた。気ままに進路変更し、川沿いを散策。家族ずれとすれ違いながら、静かに流れる時を感じた。
 楽しかった。ああそうだ、自転車が好きになった理由ってこういうことだったな。ふと、忘れていたことを思い出していた。


 というか、こういう発想の転換が何だったか。それは偶然見つけたブロンプトン*1乗りのブログである。なぜだろうか、そこに出てくる自転車は決して速くは走っていないのに、実に楽しそうなのだ。BD-1乗りのブログとはなぜか雰囲気が違う気がした。坂道では押しても絵になる、そんなフレーズが頭に残った。ロードバイクで坂道で押して歩くのはなんとも情けない姿であるが、普通に考えれば自転車は坂は押して上がるのが普通なのだ。スピードを求めるあまり忘れていた、スピードを出さない楽しさ。

 なおこのブロンプトンBD-1*2とよく較される自転車だが、雑誌などではまずBD-1が優遇される。BD-1MTBパーツと互換性を持たせることで高いカスタマイズ性を持つと同時に、走行性も得ている。最近はフレームデザインを一新し、さらなる性能向上をしている。一方ブロプトンは、カスタマイズ性は低く、デザインは昔からほとんど変わっていない。変速も3段、フラグシップで2x3の6段である。
 正直に言おう、私はブロンプトンには興味はなかった。次折りたたみ自転車を買うなら、BD-1だろうと思っていた。なぜBD-1は時代のニーズにあわせられているのに、ブロンプトンは昔からのデザインを崩さないのか、疑問でならなかった。しかし、今ならわかる気がする。
 原動機付き自転車でいば、モンキー・ゴリラとカブのような関係だろうか。高いカスタマイズ性を誇る前者がBD-1、完成されたデザインの後者がブロンプトン


 メトロを買って2年経つが、安物の宿命、もうガタが出始めている。ハブはすぐにゴリゴリ言い出し、何度もベアリングの当たりを出してやらなければならない。ちなみに走行距離は輪行メインのためまだ3000kmほどである。走行には問題ないが、そろそろ次の自転車も視野に入れている。この流れからわかるように、ブロンプトンを買おうと思っていた。いた、というのは実はブロンプトンが近くにあるのだ。

 これは実家で父親が所有しているブロンプトン。親と子は似るというが、本当に似てしまうものである。しかしこのブロンプトンは全然走っておらず、部屋の隅で畳まれて埃をかぶっている。それでは可哀想なので、今度親と交渉してみようか、とか思っている。

 でもしばらくはもちろんメトロに頑張ってもらう。最近新しい楽しみ方を思い出し、さらに充実した自転車ライフを送っている。

*1:イギリスの折りたたみ自転車

*2:ドイツの折りたたみ自転車