大自然と戦え


 はじめは好きだったが、今ではそうではないもの、それがマウンテンバイク(以下MTB)である。
 誰しも自転車といえばママチャリが思い浮かび、いい自転車といえばMTB*1で、自転車でスポーツといえばケイリンのトラックレーサーである。ほんの数年前まで私もそうだった。
 しかし今尚私はMTBを買っていないし、買う予定もない。理由は単純で、私には必要ないからだ。

 もっと遠くに行きたい。そんな動機から自転車を買おうとして、札束抱えて自転車屋に飛び込んだものだ。ルック車の存在を前知識で入手し、一応それを買う暴挙はせずに済んだが、同時にクロスバイクの存在を知り、メリダを買うに至る。ちなみにメリダを選んだ理由はなんてことはない、一目ぼれである。
メリダを買う前は「MTBメンテナンスブック」を買って勉強し、そこに出てくるスペシャライズドのMTBに涎を垂らしていたものだ。
やはり「オトコノコ」はメカが好き。多段変速!エアーサスペンションフォーク!油圧式ディスクブレーキ!もう「オトコノコ」にはたまらない!
 まあ今では…
「多段変速?必要なギア比があればいいよ。ぶっちゃけ用途によっちゃ3段でも事足りる」
「サス?あんな重くて漕いだ力を逃がすだけのパーツっているの?メンテ大変だし。リジットフォークで充分衝撃は吸収できるよ」
「油圧ディスク?雨の日はあれば心強いけど、機械式でも充分。てか重いし、デメリットの方が多い」
といった、夢のない「オトナ」になり下がっている。ともかく山を走らない私はいつしかMTBに大した興味も持たずにいる。
 そんなとき、偶然手に入れたのが大昔のスコットのフルリジットMTB。山乗り用かも分らない、実家の隅から出てきた素性不明の自転車であうる。ちなみに発掘時の状態はこんな状態である。

 撮影機材は懐かしのD505i。当時はメガピクセルケータイとして大々的に宣伝されていました。私が所有した初めてのカメラ(オマケではあるが)でもある。とにかくこの画像では分かりにくいが、すごい状態。錆サビさび!錆が何層にもなっています。もはや5-56とかピカールの次元ではなく、素直にグラインダーが必要なレベルである。ちなみにギアはこんな状態。

 いい感じに真っ赤になってます。

 当時の私は「これは復活させねば!」と意気込み早速ばらす。実はこのとき初めて自転車をばらしたのですが、いい勉強になりました。あと、写真に赤いスプレーはフマキラーです。長年放置した結果、いろいろなゲテモノが居住されてて大変でした。その後錆をワイヤーブラシでゴシゴシ。チェーンもひたすらゴシゴシ。ワイヤーは危ないので張り替え。チューブは試しに空気を入れたら見事にバーストしちゃったのでホームセンターでチューブを購入。こういうときMTBはパーツがすぐに手に入るから便利である。

 とまあそんなこんなで走行できるMTBを入手したのである。写真は完成時のものだが、この画像では間違え探しにしか見えない。実際はかなり錆も落ちてだいぶ奇麗になっている。で、乗ってわかったのはブロックタイヤのあまりの乗り心地の悪さ。これはひどい。また、ブレーキはカンチブレーキだったので、はっきり言って止まらない。
 でも、そんななかこれに乗る楽しみはやはり無舗装路を走ることだった。荒地用かどうかわからないが、ママチャリが通れるぐらいの荒地なら大丈夫だろうと無舗装地帯を進む。
 うわっ!…くぬぅ!舗装路に慣れていた人間にとってはそれは綱渡りのようなもの、危ない。でもそこはブロックタイヤががっちりと地面をとらえてくれるのでグリップは失われない。また、メリダに比べ小さなフレームは取り回しが楽で、非常に乗りやすかった。そんなこんなで、これで走っているときは荒れ地を見つけるのが楽しみだった。暴れる自転車を押さえつけ、重心を巧みに移す。まるで大地と戦っている。そんな感じが好きだった。

 だが、古いフレームには無理があったらしく、しばらくして走行不能となる。スポークが根本から折れたのだ。ほかのスポークも状態はいいといえば、しばらくお蔵入りとなる。だが、このときにはだいぶ熱も冷めていた。というより冷めた。周りには山があるが、休日は子供から老人までハイキングに訪れるような場所しかなく、走れる場所がないからだ。田舎から越してからはさらにその環境は強まり、いつしかMTBは私には不必要なものとなっていった。
 もっと遠くへ。そんな理由から自転車に乗り始めたため、どうしてもその理由とは反するMTBを買おうとは思わない。でも、たしかにロードでは侵入できない場所も走破できるのも面白いだろう。だが、なによりもMTBに乗るのに必要なのは「環境」だろう。舗装が進んだ都会ではロードの走れない場所は少なく、必然性がない。一台ぐらい持っておきたいが、当分お預けである。



 写真は当時のメリダと並んだ貴重なカット。しかし、この二台は当時非常によく似ていた。といってもMTB系フレーム、カンチ台座、変速が3x7のグリップシフトだったことぐらいか。でも、もしもう少し早くこの自転車を知っていればメリダを買わなかったのかもしれない。一方でメリダを買うことでその存在に気づき、また、工具をそろえることで再生できたのかもしれない。特にこの再生作業で得た技術は大きな糧となり、今に生きている。
 そんなスコット君だが、今では牙を抜かれ、非常に落ち着いたシルエットとなっている。

 よく見ると分かるように、あちこち変わっている。グリップを変え、シフターをラピッドシフトへ。ブレーキをメリダのお下がりのVブレーキにBBBのブレーキシュー。タイヤとホイールも一新している。だが、逆にいえばクランクやチェーン、ディーレラーなどはそのままである。あえてシンプルにまとめており、物足りなさが残る。しかし、道路を気持ちよく走る、という最低限の条件を満たしており、私の所有する自転車の中で最もコンセプトが単純で、完成されている自転車である。
 ここでまたメリダの話になる。先ほどこの二台が似ていると書いたが、そこが問題になっている。メリダが主力から降りた今、完全にスコットと役目がかぶっている。自宅待機の車両と手元に残されているという差はあるが、である。タイヤとブルホーンの分、メリダの方が巡航速度が高いが、MTBの扱いやすいフレームも忘れてはならない。スコットは回り手(Vブレーキ用ロードブレーキ、バーコンなど)を使っていないため、とても普通な自転車である。そのため乗り安さは高い。断言しよう、私の所有する自転車の中でもっと一体感の得られる自転車である。あまりに一体感があるものだから一時はトライアルの練習を試みたほどである。長続きはしなかったが。
 メリダのコンセプトも決まっていない今、最大のライバルはこのスコットである。両者の違いはMTBクロスバイクか、クロモリかアルミか。夏になればメリダを担いでで実家に帰省するだろうが、その時持って帰る自転車はあるのか、ないのか。そして持って帰られるならどっちの自転車か。まだまだやることはいっぱいありそうだ。

(追記)
 このSCOTT MOHAKAだが、調べたら詳細が分かった。1994年製で、価格289ドル(約3万円弱)、重量29.8ポンド(約13.5キロ)。フレームはクロモリで他はハイテン鋼。へえ、重量はメリダと同じぐらいか。実際持った感じも同じか、細い外観からか軽く感じる。驚くことに、値段と重量などはほとんどメリダと同じであった。同クラス同士仲良くやれよ。

*1:といっても一般的に認識されているのは"もどき"であるルック車