画素数神話


 カメラを知らない奴ほど画素にうるさい。今の風潮である。
 結論からいってしまうと、普通に使う限りで画素数は500万画素もあれば必要十分である。さらに言ってしまえば、100万画素でも困らない人はたくさんいる。写真の出来は決して画素で決まるものではない。

 カメラの性能を説明するとき、まっ先に出てくる「画素数」という言葉。カメラを知らない人は、画素数が高いと奇麗な写真が撮れると勘違いしているだろうし、売る側もそういう風に宣伝する。その結果、高画素こそが正義と言わんばかりに、画素数だけ高いカメラが市場にあふれている。
 自転車に例えるといたずらに変速数を増やしているようなもの。今現在1000万画素というものを自転車に換算すると、100段変速を超えるぐらいの勢いである。そんなに使えません。ちなみに車で言うと馬力だけ増やしているようなものだ。車の速さは馬力で決まってしまうと、トラックが速くないといけない理論になる。そういうことだ。
 もしこれからカメラを買おうと思う人がいれば、画素数は見るな。むしろ多いと疑え。カメラの性能はそこじゃない、もっと見るべき場所があるはずだ。

 実際画素が増えると奇麗な写真が撮れるかといえば、実際のところあんまり関係ない。私は一眼とコンデジをもっているが、画素数だけではコンデジの方が上だが、画質は比べるまでもない。
 そもそも撮った写真は何に使うのか。パソコンにバックアップして見たり、プリントすることだろう。だとすると、パソコンで見るには画素数が高いとディスプレイから大幅に飛び出すので、結局見るときは縮小している。ディスプレイに収めるなら100万画素まで落とさないと全体が見えない。プリントするときは、はがきサイズであれば必要な画素数はせいぜい100万画素、A4サイズに引き伸ばして500万画素だ。
 つまり、むやみに画素数を上げるのは普通の人にはナンセンス。そもそも宣伝文句に「画素数」をデカデカと乗せるのは、個人的にどうかと思う。
 いや待て、画素数が高いと拡大したりできるじゃないか、という人もいる。まあその通り。でも、高画素の写真を拡大してみると、特にコンデジであれば非常にザラザラとした写りなのが分る。このトリミングといわれる行為も一眼では普通に行われるが、コンデジでは言うほど実用的ではない。一眼だと撮った写真を等倍で見ても、全く問題ない。じゃあこの差は何だ?

 画素数が上がると画質が上がる。と世間で思われているが、実際は逆で、画素数が上がると画質は下がる。ただしこれは映像素子のサイズが同じ場合。じゃあ映像素子って何さ?という話になる。面倒なので簡単に言ってしまうとデジカメでいうフィルム。これが画素数を決めているカメラの超重要パーツ。基本的に画素と違って大きければ大きいほど画質は良くなる。映像素子は入ってきた色の情報を判別するのが仕事で、たとえば空を撮ったなら「青」を認識し、どのぐらい青いかも判別する。映像素子の大きさが1cmx1cmの大きさで、1万画素だとする。この場合、1万画素は100x100ピクセルなので、一つの色を判別するサイズは0.01cm、0.1mmる。この1mmのサイズの中に小人さんたちがいたと考え、「ここはちょっと濃いめの緑だ!」「そしてここは透きとおった青だ!」と言い合った結果できたのが1枚の写真である。ちなみにこの議論の情報をそのまま保存したのがRAW。かなり端折って和訳したのがJPG。
 1万画素で1mmなので、1000万画素となると小人さんも恐ろしく小さくなる。小さくなれば脳味噌も小さくなって「ここは…たぶん赤!」と、結構見当違いの色を言うようになってくる。
 つまりそういうことだ。

 じゃあこの映像素子を大きくすれば、画素が同じでも小人さんたちも大きくできるわけである。ちなみに先ほど大きさ1cm映像素子を例に挙げたが、コンデジで1cmものサイズの映像素子を積んだカメラはない。実際は6mmx5mmといったサイズが主流である。一方で、一般的なフィルムの大きさが36mmx24mmと桁違いの大きさである。これだけ大きいと小人さんも余裕が出て頭もよくなる。ただし、もちろんカメラの大きさも大幅にサイズアップとなる。コンデジと一眼の違いの一つはここで、映像素子の大きさが桁違いなのだ。といっても、私が使っているフォーサーズという規格の映像素子は一眼のなかでも最も小さいもので、それでも17mmx13mmだ。それでコンデジより画素が少ないので、小人さんの頭もいい。もっとも、一眼とコンデジの最大の差は別にあるのだが、別の機会に。

 といったように、無意味に画素を増やすと小人さんの頭が悪くなるばかりで、画質は向上しない。メーカーも小人さんの頭を良くしようと必死だが、画素数の向上が先のようで追いついてないように思える。一眼のような映像素子に余裕があればいいが、あえて映像素子の小さなコンデジに画素数競争をさえているのはどうかと思う。
 そもそもカメラメーカーがそれを分かっていないという訳がない。実際プロ用のカメラはみんなが思っているほど画素数は高くない。じゃあなぜか。それは他ならぬ「消費者が望んでいるから」だ。高画素=高画質を信じ切る消費者がより高画素のカメラを望む。いかに別の場所で頑張っても消費者は見向きもしない、彼らにとって画素数がすべてであるからだ。
 以前欲しいと書いたDMC-LX3は、前のモデルからあえて画素を増やさなかった。理由は画質を優先したためだ。画素を増やさず、小人さんの頭を良くしたわけだ。ちょっとだけ、カメラ業界に光を見た気がした。

 じゃあ画素が画質にあまり影響しないなら、何が画質を決めるのか。それはまた次回。というより、ここからが本題だったのに、前置きが長くなりすぎた。