飛翔


 やってみせ

 言って聞かせて

 させて見せ

 ほめてやらねば

 人は動かじ



 この日術科学校の修了式を迎えた。しかし、修了式の時ですら、これから部隊に帰る気持ではなかった。午後から何をするのだろうか?また理不尽な訓練だろうか?
 他の皆も同じ気持ちなのだろうか?一緒に過ごしてきた同期たちも。

 この期間、苦しい時間だった。肉体的、精神的に追い詰められるだけ追い詰められた。朝飛び起きて走りだすことから始まる日々。頭も使わなければならない。教官から無理難題を押し付けられ、消灯後もみんなで話し合った日も何日もあった。仲間と衝突する日もあった。でも、終わってみるとそんな思い出も楽しかったと思える。

 修了式前日、最後の自由時間、私たちは走ろうと決めた。走りで始まって走りに終わるんだな、と、冗談を言ったのを覚えている。日が落ち始め、世界が夕焼けに染まるころ、私たちは全員で歩調を声を出して走った。いつもと同じ、何も変わらない光景。けど、なぜか感情がこみあげてきた。入行当初、走れなかった者もいた。歩調をうまく言えない者もいた。他にも、期間中怪我をしてこの列に入っていないものもいた。期間中、走る時はいくつかのグループに分けて走るのが当たり前になっていた。けど、この日は全員で走りきった。遅い者は早い者に必死についてきた。よく頑張った。みんなにそう言いたかった。けど言えなかった。泣きそうなのがばれるから。このメンバーと一緒に走ることは、もう二度と来ない。

 入校した時に買った靴が、どれだけ走ったかをすり減った靴底で記憶している。よく頑張った。


 そして何より、誰より、今日だけ、その言葉を自分に使いたい。そしてそうさせてくれた同期の皆、ありがとう。