アンラッキーデイ

少なくともその日は何も起こることなく終えるはずであった。
が、事件と言うものは実に些細なものから始まる。
そう、きっかけはたった一つのスイッチからだった。

 その日は珍しく早く帰ることができた。どのくらい早く帰れたかと言うと、まだ完全に日が落ちきっていないぐらいの時間に学校を出ることができたのである。久しぶりに1時間ほど自由時間ができた。久しぶりに凝った料理をしてもいいが、そもそもそんな技能は私には無い。いつもより多めに自転車で走ってこようと考えていてひらめいた。ちょうど財布の中の過疎化が進んでいるので、郵便局に行ってお金を下ろしてこよう、という考えである。そう、今日は早く帰ったのでまだ郵便局が閉まっていないのである。手早く準備を済ませ、出発。しようと思ったら、そういえば部屋の電気を一箇所消し忘れていたので消し、再出発。道中道路交通法にのっとって左側通行中、反対側から逆走中の自転車がやってきたので避けたら、すれ違う瞬間向こうがこっちにハンドルを切ってしまい衝突。その後、また同じような状況になったので、今度はぎりぎりまで速度を落として道を譲ったら避けようとしてこけられた。私は疫病神ですか?
 その他もろもろな事件の後郵便局に到着。短時間だがしっかりと自転車は施錠し、ATMからお金を下ろす。5分足らずの用事であった。さあ帰ろう、と、自転車の元に戻り鍵を外そうとバッグから鍵を取り出し、取り出し、取り出そうとし、取り出そうと手を入れ、取り出そうと手探りし、取り出そうとして…。こういうとき冷や汗が出るのが普通だが、先ほどから不幸続きのためか冷静な思考で一つの結論が出た。鍵を忘れた。
 冷静な思考でどうしようか考えた後、徒歩で往復するしかないという結論に至る。結論に至るまで、徒歩で帰宅後原付で戻り、鍵を外した後は分解し、輪行バッグを担いで帰るという案も出たりした。もちろん普通に道路交通法違反である。ともかく冷静に時間を計算し、冷静に就寝時間も出す。そんな計算ばかりして中々行動に出ないあたり、内心焦っているのでは、と自問自答。このときなぜか「車を持っている友人に救援を求む」という案は存在していなかった。
 帰宅ルートを選定し、平均歩行速度を出し、到着予定時刻を計算し、途中によるコンビニで何を買うかまで考がえていたら、ふと見たことのある人の顔が見えた。地獄に仏、オートバイ乗りの友人が偶然郵便局に来ていた。もはやプライドなど捨ててすがりつき、往復してほしいと頼む。カップ麺が出来上がるほどの時間で状況を説明し、友人は 半ば嫌々ながら 承諾してくれて、ヘルメットを一つしか持ってないので一度取りに帰った。
 この間に必死になぜ鍵をなくしたのかを思い出す。そしてひらめく。出発しようとして、私は一度部屋の中に戻っている。そう、部屋の電気を消すために。そのとき、片手に握っていたのは自転車の鍵ではなかったか。そして、電気を消すときにそれを一度横に置かなかったか。そう、あの時なのだ。名探偵が難事件を解決したかのような感動を感じた後、一人むなしく夜風に吹かれながら友人を待つ。
 普通に考えて通常に3倍の時間がかかって到着。自転車で20分あれば往復できるのになぜに400ccのバイクで30分以上かかるのだ…。まあちょうど今込んでいる時間ですが。後ろに乗せてもらって出発。フルカウルのスポーツ系バイクなのですが、これって完全にパッセンジャーのこと考えてない…。なんかあるだけっていう気もする。正直本人の危ない運転もあいまって怖かった。そして、なぜ往復にこんなに時間がかかったのかも明らかになる。それはウルトラ大回りをしていたのだった。確かに国道じゃない道だが、この辺に住んでいるのなら知っていてもいい道を知らなかった。まあ確かに最近舗装されたばかりの道路ですが。
 寮に到着し、鍵とご対面。あまりの感動にハグした後再出発。今度は最短ルートを教えたのであっさり到着。友人とありったけの感謝の言葉を並べた後別れ、帰路に着く。帰りも何度か自転車に突っ込まれそうになったり、車に轢かれそうになったり、クラクションならされて煽られたりしながら帰宅。
 もはやへとへとの私は、簡単な夕食を作ってばてていた。明日は文化祭なので、早めに寝ようと思っていたら、視界に何か黒いものが映った。壁に黒ずみがある、そう思い近づいてみると


 EMERGENCY EMERGENCY


 虫。私の嫌いなものベスト3に入るもの、虫。ゴキブリではなっただけ良かったものの、ともかくなんだかよく分からない虫。疲れた体に鞭打って臨戦態勢。右手にコックローチ、左手にフマキラーを持って戦闘に備える。顔面にはフルフェイスヘルメットを装備(実話)し、いざ攻撃開始。しばらくガス兵器を散布した後様子を見るが、変化がない。もう一発加えようとしたら、次の瞬間勢いよく飛び始めた。一瞬動揺した後、目標を見つける。目標は電気の周りを高速で旋回を初め、そのまま数分間飛び続けた。しばらく私も様子を伺い、一瞬目を放した隙に、どこかにぶつかる音がして姿を消した。
 死んだ?安心と同時に不安になる。死んだのなら幸いだ。だが死骸はどこだ?死骸の捜索が始まる。10分ほど探したいたら、突如背後に物音が。先ほどの虫が最後の力を振り絞ったのか、弱った姿を晒していた。もはや動く力もあまり残されていないようだ。紙コップで動きを制限した後、紙コップ内に毒ガスを充満させる。数分間放置した後、紙コップに入れた虫を、紙コップごとぐちゃぐちゃにしてやりゴミ箱の中へ。こうして部屋、というより心の平和は保たれた。
 さあ寝ようか、と準備をしていたら足元に何かが見えた。ごみかな?と思ってよく見てみると。
「マタアナタタチデスカ」
 その後再び死闘が繰り広げられ、この日私は安らかに眠ることはなかった。