富士山攻略戦 前編

富士山 前編

 休みが始まった。そして戦いが始まった。
 われわれの前に迎えるのは富士へ向かうための登竜門「箱根」。
 人生始まって以来最凶のヒルクライムが始まった!


 昨晩は興奮して眠れなかった。わずかなスペースに男二人が身を寄せ合って眠っていたのだ。ムラムラ、いやイライラして。しかしまあそれなりに熟睡。


 朝、二人とも戦闘服装(サイクルジャージ)に着替え準備万端。ちなみにこの写真何をしているかというと、腕で富士を作ってます。分からんて。

 まずは順調に江の島に到着。これからは海沿いを伝って箱根へと向かう。以前一度「駅伝のコースを走ろう!サイクリング」で通ったことのある道だ。思い出される、あの走りやすい道。
 渋滞する海沿いの道。渋滞する車を横目にすいすいと進む。すると数名の集団と合流し、後ろに着かせてもらう。信号待ちなどで話してみると、だいぶ高齢だ、しかし速い。先頭の交代はちょっとできない。私たちが富士山まで行くことに驚いていたが、その年でこのスピードを出せる方がすごいと思う。というか私が遅いだけか…。その後途中何人か巻き込みながら集団で加速、加速、加速!驚きのハイペースでグイグイ進む。あまりに速いので、箱根に近づくにつれだんだん足が売り切れてくる。そしてもうすぐ箱根湯本、というところで完全に千切られてしまう…。

 ということで、まだ日も昇り切る前に疲れきった二人。これから難所、箱根突破をせねばならないのだが、先が思いやられる。休憩を兼ねコンビニでエネルギー補給と洗顔をする。洗顔するとその水がしょっぱいこと。潮風で塩がついたのが原因。ただ、この塩、中々美味であった。
 そして軽い昼食を済ませ、いざ箱根突破に挑む。

 箱根湯本までは軽い昇りが続く。奇麗な河を見ながら順調に進んでいく。しかし、昇りはだんだんときつくなっていく。だんだんとギアを落としていき、ついにアウターギアからインナーギアにチェーンを落とす。見えるのは坂。坂以外は見えない。ひたすら昇り続ける。道中何人かのローディーに抜かされる。まだまだ坂は続きそうだ。
 必死にペダルを回すが、終わりは見えない。いつ終わるのかなど考える余裕はなかった。ただ、ペダルを回し続けた。何時間ぐらいかかっただろうか?ふと、下りが現れた。そして、ふと視界が開けた。

 そして、その日初めてそれと出会った。生憎の曇り空だが、確かに、私たちの目にそれは映っていた。富士山が!というわけで記念撮影。

 その後はひたすら、ただひたすら下りが続く。だいぶ標高が高かったのか、下るにつれ確かに暖かくなっていくのが分る。そして、いつの間にか静岡県に突入!時刻は3時。順調であった。ここまでは…。
 平地に戻ったというのにペースが上がらない。二人とも完全にエネルギー切れである。とりあえずコンビニを見つけてエネルギーを補給する。しかしこのコンビニ、というかこの場所が後に重要な役目をもつとは思いもよらなかった…。
 再出発し富士山を周り始める。だが、天気はみるみる崩れていき、富士もうっすらとしか見えない。演習場付近を抜けるころには日も落ち始め、そろそろ宿泊場所を探す時間だ。偶然見つけた旅館だが、なかなかの宿泊料金。ビジネスホテル程度でいいのだが、とてもこの周りにはなさそうだ。二人の体力は箱根突破でほぼ使い果たし、口数も少なくなっていた。とりあえず一旦市街に行くことになり、長いダウンヒル。大きな道に出てしばらく進むと、ビジネスホテルの看板が!だが、書かれていたのは10Km先…。二人ともなにも話さず黙々と進む。そして、ふと既視感が…。そしてあるものを見て確信する…。どこかで見たことのあるコンビニが…。
 コンビニ近くのビジネスホテルでチェックインを済ませ、寝床は確保する。自転車をどこに置けばいいのかと尋ねると、悲しいことに駐車場の隅。車と歩行者の邪魔にならない場所ということらしい。可哀そうだが屋根もない場所で一晩過ごしてもらおう。
 部屋に入るなり二人ともベッドに倒れこむ。今日は疲れた。汗を流し、食事をしに再出発。ユニークな店員の豚カツ屋で食事を済ませ、本日二度目となるコンビニに入りいろいろと購入。
 部屋に戻るとひたすらくつろぐ。修学旅行のような雰囲気で、無駄にはしゃぎ残った体力も使い切る。
 明日の朝も早い。とにかく今日はしっかり寝よう。こうして地獄の一日目を終えた。